「RFID技術で実現!Cabiio開発秘話とエンジニアの執念」
弊社アスリート社員/上里琢文選手(ビーチサッカー日本代表)の「上里琢文が行く!」
このシリーズ企画は、上里選手が弊社の部署や社員などにインタビューを実施し、アスリートならではの視点をふまえ、皆さまに弊社のことをより知っていただく為のシリーズ企画となっております。
今回は、自社製品「Cabiio(キャビーオ)開発のリーダーを務められた、ソリューション部 S・Y さんにインタビューをさせていただきました。(2022年12月現在)お話しいただいた内容は・・・
【Cabiio開発の歴史】
【苦労した営業活動】
【エンジニアの執念】
以上の3テーマとなります!
セントラルエンジニアリング株式会社の自社製品である「Cabiio(キャビーオ)」特許を取得した「RFID」の技術を用い、物品を「いつ」「誰が」「何を」出し入れしたのか自動的に記録・管理できるセキュリティキャビネットです。
紹介ページ https://central-eng.co.jp/service/products/cabiio/
今回はこの「Cabiio」の開発リーダーを務めた、ソリューション部 S・Yさんに開発時のエピソードを伺いました。
上里:「Sさん、本日はよろしくお願い致します。」
S:「こちらこそお願い致します。Cabiioは我が子のように思っている製品ですので、着目していただいてありがとうございます。」
上里:「まずはSさんのことをお伺いさせてください。」
S:「私は専門学校を卒業してセントラルエンジニアリング株式会社に入社、以降30年以上設計をやらせてもらっています。配属になった部署がメーカーの設計請負の部門でしたので、入社後10年程度は設計請負の仕事をしていました。そんな中、社内で『RFID』(※1)を使った自社製品の開発をすることになり、 2004年にプロジェクトに参画、開発リーダーを務めました。現在は自社製品からは離れて設計請負業務をしています。」
※1[RFID]電波の送受信により非接触でICタグ(※2)のデータを読み書きする自動認識技術。
※2[ICタグ]RFタグと同義。情報を記録するICチップ(※3)と無線通信するアンテナで構成され、シールラベルやプラスチック素材で加工されている。RFIDリーダー内部のアンテナから電波を送受信して、ICタグ・RFタグ情報の「読み取り」と「書き込み」を行う。
※3[ICチップ]ひとつの半導体の基板(チップ)上にトランジスター・ダイオード・コンデンサー・抵抗などの素子をまとめ、金属の薄膜で配線した電子回路(の総称)
【Cabiio開発の歴史】
上里:「セントラルエンジニアリング株式会社はどういった経緯でCabiioを開発することになったのでしょうか?」
S:「最初は、ある企業さんからの『衣類にRFIDタグをつけて、一度に複数枚の情報を読み込めないか?』という話から始まりました。現在、某アパレル大手のレジに導入されていますよね。買い物かごにタグのついた商品が複数入っていて、レジに置くだけで全ての商品情報を読み取れるものです。」
「これを20年前にやりたいと言った企業さんがいたのです。タグのイメージはつきますか?今日は私がCabiioの営業をしていた時に使っていたICタグのサンプルを用意しました。」
上里:「この中にICチップが埋め込まれているのですね。」
S:「そうなんです。タグの中に埋め込まれています。ぐるぐる巻いてあるのがアンテナで、真ん中についている小さいポッチがICチップです。Suicaなどの中身も、このような構造になっています。」
上里:「なるほど。防犯用(万引き防止)の物もこれと同じなのですか?」
S:「防犯用と似ていますが違います。防犯のものは『ありかなしか』のようななイチゼロの情報なのですが、これには商品名や値段など、いろんな情報がICに書き込まれています。」
上里:「20年も前にICタグの発想があったのですね。」
S:「そうなんです。ところが開発スタート当初は、当社では誰も『RFID』の知識を持っていませんでした。大きな挑戦でしたね。みんなで一から勉強するとこらから始まりました。」
上里:「勉強したということは、RFIDという技術そのものは当時からあったのですか?」
S:「RFIDそのものは昔からありました。我々が始める頃にはもう製品化されていて、いろいろなメーカーのタグが出ていましたし、RFIDのタグを読むための市販のリーダーや装置も売っていましたね。その状況から我々は自社の製品開発を始めたわけです。」
上里:「市販品がある状況なら、それらを使った製品を作るのはそれほど苦労はなさそうに思えますが?」
S:「ところがですね、市販品のリーダーはSuicaみたいに10cm以内まで近づけられれば読めるのですが、依頼を受けているものは、空間にあるタグを読み取りたいというものでした。しかし市販品では空間の中の複数個のタグは全く読めないというのが実情で、それならば自分達で作るしかないということになったんです。」
空間なので、アンテナを立方体のように6面に置いて、これまでは1台のリーダで複数枚のアンテナを切り替えて使っていたものを、アンテナごとにリーダーを用意しました。ちょっと難しい話になりますが、この6枚のアンテナの送信波を独立させて制御し、さらにダイバシティー(※4)機能も搭載した装置を開発しました。これは我々に無線通信機器のノウハウがあったため開発が可能だったのです。」
(※4) ダイバシティー:複数のアンテナで信号を受信し、中から良い状態の信号を選択したり、または受信信号を合成してノイズを減らす手法のこと。
上里:「技術が次の技術を生んだ瞬間ですね。」
S:「初めて思うようにタグを読み込めた瞬間は今でも覚えていますよ。いろいろ勉強して作った装置で、パソコン上でタグの内容が表示されて、『読めたぁっ!』って。あの時は嬉しかったですね。勉強しながら、一喜一憂しつつの開発でしたので、時間もかかっていました。」
上里:「そこは仕方がないところですよね。」
S:「ところが、そうこうしている間にお客様(企業)の方針が変更され、開発プロジェクトが中止になってしまったのです。当然それまで研究開発していたものは形にならず頓挫したわけです。もし当初から我々の技術力が高ければ、実用化まで到達できたのかもしれません。」
上里:「悔しいですね。」
S:「幸いにも、ここまで頑張ってくれたからRFIDの技術はセントラルさんで自由に使っていいよということを先方に言っていただき、後のCabiioの開発に繋がったわけです。この技術を使った最初の自社製品が『RFIDシェルフアンテナ』という名の本棚です。書籍や書類の管理ができ、図書館などで使ってもらいました。」
S:「その後、アンテナの形状を改良して、重ね合わせることで、ICチップを高精度で読み取れることを発見しまして、その技術を使って、平たい『フラットアンテナ』という製品を作りました。このアンテナの上にたくさんの物を無作為に置いても読み込むことが可能になり、『全方位一括読取方式』という技術で特許を取得したんです。これが当時の我々の自慢で、試験管百本に入ったタグ、キーホルダーに入ったタグまで読めるのは弊社の装置しかありません!と売り込んだりしていましたね。」
上里:「そこが特許だったんですね。なにかの展示会で、引き出しにごちゃっと無造作にいれたタグも読めるのはセントラルだけだというCabiioのインタビュー映像を見たことがあります。」
S:「そうなんです。この後にようやくCabiioの前身機が登場します。開発することになったきっかけは、とある会社さんからの問い合わせで、1000個以上の鍵を管理する業務があり、その鍵管理を自動化したいというものでした。そういうことだったらうちで作れるのではないかということで、初代のセキュリティキャビネット(現在のCabii)を開発します。これは完全にご依頼いただいた会社様向けにオリジナルでつくった装置でした。」
上里:「大きいですね!」
S:「大きいです。オーダーに対応した結果、このサイズ、現行品の倍の大きさになりました。全ての引き出しの下に、一枚一枚アンテナが入っています。しかしこうやってアンテナが密集しているものを作ろうとした時に、また次の課題をクリアする必要がありました。」
上里:「どういったものですか?」
S:「複数の同一信号の処理です。特定の引き出しの中に物があるのかどうかを把握できるということは、隣の引き出しの中身と区別しなくてはいけないということです。区別できないと、複数の引き出しから反応がある場合に、発信源を特定できないわけです。そこで複数の信号を受信しても、受信レベルなどの色々な情報を使って、ソフト的な処理で不要な信号をキャンセルして、この引き出しに入っているはずだと特定できるようにしたのです。」
上里:「そんなことが出来るのですね。素晴らしい。」
S:「ご依頼いただいたお客様からはとても良い評価をいただいたので、これを市販で売ろうということになりました。実はここまで我々が作っていたのはリーダーとアンテナだけで、運用する場合はお客様のほうでソフトを作って使ってくださいねという売り方でしたので、一般には売れるはずもありませんでした。そこでソフトも全部一体化して、先ほどの操作画面ソフトなども全部パッケージした『鍵管理システム』として製品化しました。名称も「物品管理システム」や「セキュリティキャビネット」でした。これがCabiioの前身機になります。」
上里:「まだCabiioではないんですね。ここまで来るまでの期間はどれくらいかかったのですか?」
S:「2004年に開発を開始。最初のリーダーができるまで2年ぐらい掛かりまして、キャビネットができたのは2008年なので4年ぐらいですね。時は流れて2018年、さらにコストダウンしてリニューアルすることが決まりました。その際に私がなにか名前を付けようと提案し、みんなで案を出し合って『Cabiio』(キャビーオ)という名前になったんです。収納の『キャビネット』と、物を出し入れするので『I/O 』(アイオー:インプットアウトプットの略称)を繋げて『Cabiio』です。綴りも検索サイトでヒットしなかったので、いいねということで決まりました。」
上里:「とうとう現行機のCabiioの完成ですね。そして現在に至るわけですね。」
S:「こうして振り返ると長い歴史になりましたね。20年前、開発を始めたころは、SuicaやETCが導入され始めたりして、自動認識技術の発展が目に見えて変化していた時期でした。当時は20年後はほとんどの物品にICタグがついていて、さぞかし便利になっているのだろうと想像していましたが、意外と物品の管理という面では大きな変化はありませんでした。そのため、Cabiioの需要は現在でも十分にありますね。実際、弊社の社内や工場でも便利に使われていますから。」
【苦労した営業活動】
上里:「初期型のCabiioが完成した当時には、似たような感じのセキュリティキャビネットは他社からも製品として販売されていたのですか?」
S:「ライバル製品みたいなものはありましたが、管理できる個数が断然少ないものでした。鍵の管理と言えば、蓋をパカっと開けて鍵がフックにかかっているようなタイプのものが主流ですが、管理できても10個とか20個。そんなに管理できる数は多くないわけです。もっともっとたくさんの鍵を管理したいのであれば、引き出しの中に鍵や物品を立たせれば出来ますよというのが我々の売りだったんです。」
上里:「さらにその引き出しの数も多いわけですものね。」
S:「そうです。一つのキャビネットで最大540個の鍵管理ができるわけです。」
上里:「540個とは引き出し内のスポンジに挿さる数ですよね。スポンジを使わないで、無造作にジャラジャラいれたらもっともっと入るのではないですか?」
上里:「原理的にはもっと読めるはずですが、管理に使うとなると100%読み取りが成功しないといけません。ですので、絶対に読めるっていうところで間隔を開けて収納してもらい、上限540個と設定しました」
上里:「そういった独自性があるので、さぞかし好評だったのではないですか。ところで当社には自社製品セールスの営業はいませんよね?」
S:「そうなんです。それで私自身が営業にいったのですが、やはりもとが技術者なので、営業活動は大変でしたね。カタログを持ってお客さまのところまでいくのですが門前払い。。。守衛さんのところで断られちゃったりすることもあってとても凹みました。」
上里:「営業といったら、『一回ぐらいで諦めるんじゃない。営業は百回でも千回でも毎日通うんだよ』なんて聞いたこともあります。」
S:「そこまでは通えませんでしたね(笑)ようやく話を聞いて頂けても、世の中にはこういう装置が無いので、お客さまにはなかなか理解して頂けませんでした。『鍵なんか無くしたら新しいのを作ればいい』みたいな考え方の方が多いんです。安い製品ではないですし、無くしたら大変であるとか、鍵の管理がお金に換えられないところの価値を感じている会社や組織に導入していただけました。」
上里:「金融関係、学校での実績があると伺いました。」
S:「あとは不動産屋、運送会社、医療機関、ハンコを管理している法律事務所などに行きましたが、価格的に難しい。よく、半分のサイズはないのか?と聞かれたのですが、サイズを半分にしても値段は半分にならないので 余計に割高感が出てしまうという事と、社内の状況もあり、開発には至りませんでした。」
【エンジニアの執念】
上里:「Cabiioの開発と販売は苦難の道のりだったんですね。ここからはCabiioから少し離して、エンジニアとしてのSさんにお伺いさせていただきます。製品開発の醍醐味はやはり完成した時の達成感なのでしょうか?スポーツの試合に勝つのと共通するものがあるように感じます。」
S:「そうですね、何か出来上った時はもちろん嬉しいのですが、うまくいかないことが解決した時も同様に嬉しいですね。開発中は謎解きみたいに、なんで動かないんだろう?の連続で苦しいわけです。何が原因なのか一つ一つ追っていって、とうとう原因が判明して、うまく動いたりした時の喜びは格別です。ここはスポーツでもなんでも一緒だと思うんですけど、あきらめない事は大事ですよ。」
上里:「あきらめずに練習して、出来なかったことができるようになる喜びと同じ感覚ですね。」
S:「30年エンジニアをやってきてわかってきたことですが、どんな問題があっても、絶対にどこかに原因があるはずで、絶対に解決できると信じて、あきらめないで取り組んでいれば、何かしら解決することができるということです。若い頃、委託で開発している機器の性能が規格をクリアできないということがあって、連日夜遅くまで取り組んでいた際、お客さまから『もう、そんなに頑張りすぎなくても大丈夫ですよ』と言われてしまい、そのショックでそれまで思いもしなかった対策案がひらめいて解決に至ったこともありました(笑)」
上里:「“絶対に成功できる”と自分を信じられるメンタルがあってこそ、努力も出来るわけですが、同時に自分を俯瞰できる視野も持っていないと発想力も低下してしまうかもしれませんね。スポーツはひらめきで勝敗を分けることもありますから、視野は狭くならないように意識しています。逆にものづくりをしている中で、基礎練習ではないですが、基本に立ち返る場面などはあるのですか?」
S:「ありますあります。技術的にすごく難しいことをしていても、基礎的なこと、チェックには力を入れています。回路はひとつミスがあるだけで、全体が動かなくなってしまいますので、図面は文字1個の書き間違えも絶対にあってはいけません。そのため、技術の有無に関係なく、誰でもできるようなことですが、図面上で何度も何度も赤ペンとかマーカーでチェックして、例えばD1,D2,D3,D4,D5・・・はきちんと順番通りに並んでいるのかということまでチェックしています。
上里:「字も細かいし見つけづらいですね。これは大変な作業ですね。そこまでやっても、やはり人間がやっている限りゼロにはならないですよね?」
S:「ならないです。そのため出来るだけ機械の力を借りています。機械で照合できるところは自動的なチェックをかけたりもするのですが、その上で人間の目でも、本当に目を皿のようにしてチェックしています。さらに私個人では、自分の『失敗チェックリスト』を作っています。過去に失敗した例をすべてメモしてありまして、新しく設計した際に同じ失敗をしないように回路のチェックの際に確認しています。」
上里:「もはや執念ですね。」
S:「そうかもしれませんね(笑)チェックは本当に大事で、チェック漏れが原因でミスが出るのはもったいないですよね。せっかくいい設計をしていても、ちょっと回路が間違っているだけで動かなくて、問題になり、また基板から作り直さなければいけなくなってしまいますので。」
上里:「基本が出来ていないと、その上に何を乗せようとしても機能しないんですね。そこはスポーツの技術の積み上げと全く同じですね。高等技術は基本の上にしか成り立たない。」
S:「積み上げるという意味では、全くその通りです。エンジニアは基本が出来ていないと何もできないですから。」
上里:「絶対にあきらめない強い気持ちと、基本の徹底が製品開発設計を支えているのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。」
S:「こちらこそありがとうございました。」
S・Y
東京都目黒区生まれ。現在は横浜市在住。 1990年入社。
30年以上通信機器の電子回路設計に従事。 電気機器メーカーの携帯電話基地局等の電子回路設計を請負設計部署にて10年近く従事した後、RFID自社製品開発プロジェクトのリーダーを務め、開発完了後には営業部門に異動し自らRFIDシステム(現Cabiio)のカスタマーエンジニアとして奔走する。 その後再び請負設計部門に異動し、電気機器メーカーの公共無線システムの開発リーダーを務める。 現在は鉄道信号制御装置の開発SEとして次世代の列車制御システムの開発プロジェクトにて活躍中。
上里 琢文
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