「屋外拡声用デジタルパワーアンプの開発秘話:防災無線の未来を担う技術」
弊社アスリート社員/上里琢文選手(ビーチサッカー日本代表)の「上里琢文が行く!」
このシリーズ企画は、上里選手が弊社の部署や社員などにインタビューを実施し、アスリートならではの視点をふまえ、皆さまに弊社のことをより知っていただく為のシリーズ企画となっております。
今回は、自社製品「屋外拡声用デジタルパワーアンプ」について、ソリューション部 エンジニアリング室 室長の M・N さんにインタビューをさせていただきました。(2023年1月現在)お話しいただいた内容は・・・
以上の4テーマとなります!
セントラルエンジニアリング株式会社の自社製品である「屋外拡声用電力増幅装置」
日本全国40,000カ所に採用されている、高効率化、小型化を実現したデジタルパワーアンプです。
紹介ページ https://central-eng.co.jp/service/products/amplifier/
【防災無線とは】
上里:「Mさん、本日はよろしくお願い致します。」
M:「こちらこそお願いいたします。」
上里:「早速ですが、まずは拡声用のアンプとはどういうものなのか教えていただけますか?家庭用のコンポだったら、スピーカーを繋いでいる本体部分のことですよね?」
M:「正解です。音(音声信号)はアンプに通すことで増幅され、スピーカーから音として出力されます。スマホなら本体がアンプで有線イヤホンがスピーカー、ワイヤレスイヤホンの場合はイヤホンの中に超小型アンプが入っているようなものなので、アンプを動作させるためにイヤホン自体を充電する必要があるのです。」
上里:「アンプは『大きくて重い』イメージがありますが、ワイヤレスイヤホンの中にも入っているのですね~。」
M:「そうなのです。弊社自社製品のデジタルアンプは、イメージ通りの箱型のもので、屋外でも使用可能な放送用のアンプになります。夕方に『夕焼け小焼け』がどこからともなく流れる地域は多いかと思いますが、あの音声はアンプを使って拡声されているのです。」
上里:「自分の目ではなかなかスピーカーの実物は見ないですが、音は聞こえますね。この塔にアンプが設置されているのですか?」
M:「そうです。放送用の鉄塔の根元の部分や隣に、箱型のケース(屋外拡声子局)が設置されていて、その中に入っています。ケースの中に収納されているのはアンプだけではなく、無線装置も入っています。この装置の制御は市役所などに設置されているパソコンなどの制御装置から行われ、携帯電話のように、市役所で喋った音声をそのまま拡声することもできます。」
上里:「携帯と同じ電波なのですか?」
M:「携帯電話とは違うものになります。60 MHz帯と言って、防災無線特有の周波数になります。いまの技術でしたら、携帯等の一般的に使用されている機器を使用して同じようなシステムをつくることも可能ですが、特有の周波数帯域を使用し、独立した通信網でシステムを構築していることに意味があります。なぜなら、この無線装置が本当に活躍するのは災害時を想定しているからです。」
上里:「そうか!災害時には携帯電話はつながりにくくなりますよね!」
M:「そうなんです。公共インフラの通信網が途絶えてしまった時でも避難指示などを放送するためです。元々防災無線は携帯電話などが無い時代から存在していて、独立した通信網でシステムを構築しているため、災害に強いのです。」
M:「さらに最近のシステムではこの60MHz帯も使わなかったりしてきています。通常時はいわゆる一般回線を使い、いざという時は衛星と繋がるようになっているのです。通信衛星がバックアップになるわけです。」
上里:「すごい話ですね。」
M:「衛星を利用することの利点は、地上の設備がダメになってしまっても防災無線放送設備のところに電波を届けることができます。衛星通信は独自の設備で行われ、東京や大阪など日本全国にあり、緊急時はどこの設備も使うことができます。」
上里:「 防災無線もどんどん発達しているのですね。防災無線を管理しているのは 各自治体になるのですか?」
M:「基本的には各自治体での管理になります。どこの地域にも放送設備はあるのですが、変わった例として横浜地区には実際このスピーカーは設置されていません。マンションなど高層建築物が多いため、放送の音声がうるさいとクレームにつながりやすいからです。対応として、各世帯に受信装置を配布するケースがあります。」
上里:「横浜以外でも人口密集地域では放送が無いところが多いのですか?」
M:「そうですね、放送がないところは結構多いですよ。しかし設備も年々進化して対応しています。例えば、4方向にスピーカーが向いているわけですが、それぞれの出力を遠隔でコントロールできるものも出てきました。コントロールできると、設備設置の際には無かったマンションが建設されても、その方向の音量だけを抑えたり、平常時は小さな音で放送しておいて、災害時にはフルパワーで大きな音で情報を発信するといった設定もできるようになってきています。」
上里:「セントラルエンジニアリングで作っているアンプはそれに対応しているのですか?」
M:「対応しています。OEM(※)という形で、あるメーカーさん(以降A社)に販売しているものにその機能が付いています。私も設計から携わっていますが、知っている限りでは、この機能はこのメーカーさんの商品にしかありません。」
※Original Equipment Manufacturing:他社ブランドの製品を別のメーカーが製造すること(あるいはその企業)のこと
上里:「OEMということは、設計も製造もしているのに、『セントラルエンジアリング』というブランドでは販売していないわけですよね、残念ですね。」
M:「しかしですね、有名ブランドであるほうが売れやすいメリットも大きいのです。有名ブランドと無名ブランドで、同じような商品が同じような値段で売られていたら、有名ブランドから買いたくなりますよね。」
上里:「なるほど!まさに縁の下の力持ちという立ち位置ですね。自分が得点して目立たなくても、ゴールのお膳立てをして、チームを勝たせる役割と似ていますね。」
【アナログアンプとデジタルアンプ】
上里:「製品名にデジタルアンプとありますが、アナログアンプもあるのですか?」
M:「弊社の製品は『デジタルアンプ』なのですが、元々は『アナログアンプ』でした。」
上里:「アンプでデジタルってどういうことなのかイメージしにくいです。入って来る音を電気の力で増幅させるだけなのでは?」
M:「はい、ではデジタルとアナログの違いからお話ししますね。音の世界でのアナログとは、今こうやって直接喋った声を聞くこと。これがまさしくアナログの音になります。波形で見ると、滑らかなカーブを描いています。デジタルの場合は、この音声を一旦、0と1のデジタルデータに変更してから、不自然にならないようにアナログ音声に似せていくのです。波形では、最初に変換した段階ではカクカクした階段状になっているものを、滑らかなカーブに近づける回路も必要になってきます。そのため、デジタルアンプの製造には、アナログアンプの倍近いコストがかかってしまいます。」
[波形イメージ]
左:デジタル波形 右:アナログ波形
上里:「そんなにコストがかかるなら、アナログのままではいけないのですか?」
M:「そう感じますよね。なぜ防災無線はデジタルアンプに移行するのかというと、省電力だからなんです。アンプ本体の中には車のようにバッテリーが収納されていて、停電時はバッテリーの電力で音を鳴らせます。しかしこのバッテリーには容量があるため、省電力であるほうが長い時間、音を鳴らし続けることが可能なわけです。人命がかかっていますから、少々先行投資額が高くなっても、効率が良いデジタルアンプが求められるのです。」
上里:「納得しました。防災無線界はデジタルに切り替わっていきそうですが、オーディオ界隈ではアナログアンプも人気ありますよね。共存共生はしていけると思いますか?」
M:「もちろんです。正直な話、オーディオのように音質にこだわるのであれば、やはりアナログの方が良い音です。どうしても一度デジタルに変換してしまうと100%元通りにはできませんから。だからオーディオにこだわっている人は真空管アンプを使ったりしてアナログのまま音を楽しんでいますよね。それに対して災害放送は、とにかく聞こえて聞き取れればいい、なにかあった時に逃げられる合図になればいい、という用途なので、デジタルに切り替わっています。 」
上里:「デジタルは劣化をしないので音が良いように感じていましたが、音声の情報量としてはアナログの方が多いのですね。」
M:「他にも、本体が軽いので作業がしやすいだとか、消費電力が下がるので、維持費が安くなるメリットもあります。アンプはAC 100ボルトで動くのですが、これを動かすためにもやっぱり電気料金がかかるんですね。ご家庭と同じように、MAX何アンペア使うかによって電気会社との契約料金が変わるので、電気代を下げられるのです。」
上里:「一般住宅の契約と同じような料金システムなんですね。」
【デジタルアンプ開発史】
上里:「デジタルアンプはどれくらい前から作っていたのですか?」
M:「デジタルアンプの開発を開始したのは2000年のことです。それまで我々は、ダムや河川に設置されダムが放水する際、事前に周辺住民の方に水位上昇の危険を伝える『放流警報』のシステム設計業務を請け負っていました。」
M:「この警報を出すための装置の一部として、アナログアンプの設計受託もしていました。それを知った、先ほどのメーカーA社さんから、デジタルアンプの開発をしないか?という声がかかったのが2000年になります。」
上里:「20年以上前ですね。」
M:「それまではアナログアンプの改良をしていたのですが、この年からデジタルアンプの開発に取り組み始めます。未経験の領域へのチャレンジとなったわけですが、最初は失敗の連続で、ここではお話しできないような設計会社として恥ずかしい思いもかなりしました。」
上里:「それから何年くらいかかり完成したのですか?」
M:「幾度となく失敗を繰り返し、5年後の2005年にようやくセントラル製のデジタルアンプが完成しました。これはA社さん向けのOEMになりますので、設計製造していても自社製品とは公言できないんですね。そこでセントラルのブランドとしてさらにブラッシュアップして売り出そうということになり、2008年にようやく完成形として販売することができたんです。」
上里:「すごい年月をかけて完成させたのですね、本当に頭がさがります。このアンプは完全業務用製品ですよね?我々に馴染みがあるところは家庭用オーディオですが、家庭用も最初はアナログしかなかったところからデジタル化はしているのですか?」
M:「同じような時期にデジタル化しています。でも我々は家庭用のオーディオアンプは取り扱っていません。この理由は、やはりオーディオとなると聴き心地や音感を求められます。そうなると強いのは音響メーカーです。CDラジカセやコンポなどを扱っていて、実際にスピーカーを作っているメーカーが力をいれてきます。我々としては、そこで勝負をしても勝てないことは分かっていたので、同じアンプでも屋外仕様の、過酷な条件で動作しなければならない分野に参入したわけです。民生機とは違う設計要素が必要になってきますので、音響機器を作っている大手メーカーが参入しにくい分野なのです。」
上里:「なるほど。戦略勝ちということですね!」
M:「現在からみれば戦略は当たったのですが、当初は全く売れませんでした。それまではメーカーさんからの依頼で製造していたわけですが、いざ自分達で作ってみたら売れないんですよ。というのも、防災8社と呼ばれる防災無線システムを作ってるメーカーさんは、それぞれ独自のブランドを持っているため、セントラルの製品はなかなか買ってもらえない。メーカー向けではなく、一般向けに売り出しても用途が特殊なため需要が少ないという状況だったのです。」
上里:「アンプの売り込み先は各自治体ではないのですか?」
M:「各自治体さんがエンドユーザーになるのですが、我々の販売先は、メーカーや会社になります。大手メーカーといえども、全製品を社内で生産しているわけではなく、我々のような中小メーカーに製造依頼をして、完成品を自社のブランド名で販売するという方式をとる場合がありますので、我々の取引先としては各メーカーさんになっています。」
上里:「まさにB to B (※)ですね。」
(※「Business to Business」の略。メーカーとサプライヤー、卸売業者と小売業者、元請け業者と下請け業者など、企業間で行われる取引を指す。)
M:「そんな状況でうまくいっていなかった販売でしたが、2011年に転機が訪れます。」
上里:「2011年というと、震災ですか?」
M:「そうです。皮肉なことですが東日本大震災をきっかけに販売が伸びることになります。日本中の災害対策の意識が高くなった結果、各自治体からそれぞれの地域でメンテナンスや施工を請け負っている会社さんへの放送設備の注文が増えました。自社で製造をしていない会社さんがアンプの購入先を探し始め、そこでアンプだけを販売している弊社を見つけてくれ、注文が増え始めました。その中でも、影響が大きかったのはトランペット型スピーカーを作っている有名メーカーさんが、自社のスピーカーの推奨対応アンプとして一時期、セントラルの製品をカタログに載せてくれたことです。」
上里:「チャンスが訪れたわけですね。」
M:「そうです。そこからの販売の伸びは比較的早かったのを覚えています。施工業者さんの横のつながりもあると思うのですが、『他の会社さんから紹介されたので問い合わせしました』というようなこともありました。これも諸先輩方の地道な営業努力があったからこその結果といえます。」
上里:「あきらめずに努力を続けた結果ですね。Mさんが印象に残っている苦労した場面なんてありますか?」
M:「謎の異音の原因調査をした時ですかね。音が出ないはずの状態なのですが、なぜか小さく「ブー」っというノイズが出てることがありました。小さな音なのですが、スピーカーを接続して拡声するとはっきり聞こえてしまう。この音が消せなかったんです。」
上里:「どうやって解決したんですか?」
M:「これには苦労をしました。製品を全部バラバラにして、波形測定器を使い、回路内のすべての音の通り道を確認しましたがわかりませんでした。組み上げた状態になると音が鳴るということから探っていくうちにようやく原因が掴めました。コイルという部品が製品内のある場所(部品)に近づくことで干渉して音が出ていたのです。音は目に見えないものですから、ずっと『聞くだけ』の作業の繰り返しでノイローゼになりそうでした(笑)」
上里:「それは大変な作業でしたね。。。問題が解決して製品が完成したなら、あとは同じものを作り続けるわけですか?」
M:「基本形は2008年ぐらいまでに完成しているのですが、そこからさらに細かい仕様が違う派生型が増えていくので、単純に同じものを作り続けるわけではないです。使用している部品もメーカーさんが生産中止にすることもありますしね。」
上里:「部品も生産中止になるのですね。そうなると代替部品を探すわけですか?」
M:「そうなのですが、部品を一つ変えると、それに関係する部分すべての機能をチェックする必要も出てきます。さらには維持するだけではなく、他社製品の性能も上がり続けますので、弊社も性能を上げていかなくてはなりません。そんな理由で、製品の形は一緒でも、中身はちょっとずつバージョンアップし続けているのです。」
上里:「会社と同じで、成長なき製品にも未来はないのですね。競合他社の製品と比べて、セントラルの製品には特徴はあるのですか?」
M:「セントラルのアンプは電力変換効率が良いので、電気代が安く済みます。アンプ+電源で開発していますので、その性能には自信があります。それから販売価格に関しても低く抑えることが出来ています。これはアンプだけを販売する会社が他にあまりないためなのか、ある程度の注文が見込めるようになったためです。」
【子どもにもわかりやすい新製品を作りたい!】
上里:「今後の展開についても教えていただけますか?」
M:「防災無線に関して言えば、我々はアンプの筐体を設計、製造をしています。ソフトウェアも一部やっています。そういった意味では、弊社で設計が全部できます。製造も一部であればできる。さらには派遣に出てもらっているメンバーは施工もできる方もいます。ということは、我々の総力を結集すれば、防災無線主要8社と同じように、自社ブランドで防災システムを売ることも可能なんです。その可能性は追っていきたいですね。さらにこれまで積み重ねた設置、運用のノウハウもあるので、例えば自治体さんにコンサルに入るなど、防災無線を基点にして、新しいビジネスの裾野も広げていきたい。またアンプは他の機器も含めてシステム化しないと機能しないものですが、単品で使えるようなものを生み出していきたいですね。」
上里:「いろいろな可能性が広がりますね。新製品を生み出すのに、乗り越えなければいけない壁のようなものはありますか?」
M:「はい、我々は現場を見てしまっているので、現場の感覚に偏りがちなんです。そういう意味では、技術系ではない部署の方などの発想からも何か見つけられたらいいかなと思っています。まだ形にはなっていませんが、未来技術プロジェクト(*)も立ち上げていますし、派遣のエンジニアにはスキルを身につけて戻って来てもらい、そこに受託設計の部分で積み重ねている知見を加えて、新しい何かを生み出せる体制も作っていきたいですね。」
*未来技術プロジェクト:自社製品開発を目指した社内プロジェクト
上里:「いろんなところに行ってる人たちが集まるのは、日本代表チームみたいですよね。」
M:「その代表メンバーに、日々新しい製品を作ることに集中してくださいっていえるような環境を作らなくてはいけません。」
上里:「難しそうですね。」
M:「難しいですが、それができなければ次の自社製品は生み出せません。」
上里:「期待しています。開発の方向性みたいなものは決まっているのですか?」
M:「我々が今まで作ってきた製品は、なかなか普段の生活では、目にすることがない場所に使われているんですよね。私事ですが、子供にお父さん何作っているの?と問われても答えにくいのが本音です。でもこれがカーナビだとか車だったら、これを作っているんだよって言えるじゃないですか!現状では自社製品ではそういったものはないので、単品で使える上で、身近にあるような自社製品を生み出したいですね。」
上里:「夢があっていいですね!」
M:「夢を実現するために、いいアイディアをお待ちしております(笑)」
上里:「本日はありがとうございました!」
M:「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」
デジタルアンプの開発記事はこちら
https://note.com/central_labo/n/n05f597cefba4
未来技術プロジェクトについての記事はこちら
https://note.com/central_labo/n/nea3a6345485b
M・N
神奈川県平塚市生まれ。現在4人家族(+めだか10匹)で神奈川県厚木市在住。 1999年に新入社員として入社。受託設計、構内請負、技術者派遣で防災無線システム、生体認証システム、 宇宙機器のハードウェア設計、システム設計を15年担当。 電力増幅装置開発、水利システム開発のプロジェクトリーダ-、プロジェクトマネージャー担当後、 構内請負、技術者派遣で得た経験とお客様との信頼関係をもとに、現在は技術営業責任者として活躍中。
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